自分たちが見ているのは、お客様か?自社の事業か?人の「成長」をテーマに、人材育成支援事業や出版事業を通して多くの人々の“学び”を支え、NOLTYブランドをはじめとする手帳事業でも知られる日本能率協会マネジメントセンター(JMAM:ジェイマム)様。「人的資本経営」という考え方が広まり、人材への積極的な投資を行う企業も増えつつある中、JMAM はデジタルマーケティング組織の強化を進め、支援の輪をさらに広げようとしている。その牽引役となるHRM統括本部本部長の斎木輝之さんは、学生時代から人と組織の「成長」に強い関心を寄せてきたという。「大学で人事労務管理を専攻していたのですが、ゼミでの学びだけでなく、国家資格にチャレンジするために社会人の方たちと同じ講座へ通いました。そこには、大手企業から来た方でも会社に言われて仕方なく、という雰囲気の人もいれば、世の中には知られていない会社でも、本気で覚悟を決めて学んでいる人もいた。この輝きの違いは何だろうと“人と組織”に対して強い関心や疑念を抱いたことが原体験のひとつになっています」斎木さんはJMAMに入社した後、およそ10年にわたって営業を務め、京都の老舗メーカーから六本木・渋谷エリアのスタートアップ企業まで、さまざまな企業に対して提案を行ってきた。そして、開発部を経て販売促進部(当時)へ移り、現在のデジタルマーケティングの前身となるかたちで、新しいビジネスモデルを模索していく。「当時の“販売促進”という呼び方が象徴するように、プロモーションをしようとすると、お客様のことを見ているようで、どうしても自社の事業を見てしまうのですね。これは本当にお客様のためなのだろうかと疑念を抱くようになりました」と斎木さんはふり返る。個々の事業を伸ばすという発想ではなく、お客様を起点とした価値提供を目指していきたい。そんな斎木さんの想いに呼応するように、カスタマーリレーション部が設置され、より顧客起点の組織づくりへと一歩近づいていく。高い継続率を保ってきた反面、リーチできていないお客様がいた斎木さんはなぜ、それまでの営業や販売促進の在り方に対して、改革の必要性を感じるようになったのだろうか?「ひとつは、我々の目線ではなく、お客様から見て長期的にJMAMとお付き合いしたいと感じていただけるような関係性のもとでLTVを高めていきたいと考えていたこと。もうひとつは、“顧客資産の形骸化”です。これは大きな強みでもあるのですが、JMAMは非常に継続率が高い会社でして、お客様との取引継続率も売上継続率もかなり高いパーセンテージを保ってきました。そういう意味では、既存のお客様だけで営業が十分に回ってしまう。贅沢な悩みでもあるのですが、事業構造を見るとパレート(2:8)の法則がぴったりと当てはまっていて、変化に対してリスクが大きい。そして何より、我々の人材育成支援に対して価値を感じていただけるお客様は、きっとまだたくさんいらっしゃる。そこに対して価値をお届けできていないことに強い問題意識を覚えました」「営業組織の改革に貢献し、お客様にどれだけ価値を提供できるかを追求していきたい。」目指すべき方向はくっきりと見えているものの、それをかたちにして実行に落とし込むまでは、さらなる模索が続くことになる。新たな組織を立ち上げ、統合型のマーケティングを本格始動「いろいろな苦労がありましたね、最初は(笑)。システムとしてはAccount Engagement(旧Pardot)が導入されていたものの、それを利活用することができていませんでしたし、顧客データベースも、デジタルマーケティングの基本フローも整備されてないという状態からのスタートでした」(斎木氏)2018年に斎木さんがカスタマーリレーション部の部長に就任。さらに、当時、情報システム部で顧客データの整備や各事業部からの情報を集約して、メールマガジンの配信などを担っていた三宅裕紀子さんをHRM統括本部デジタルマーケティング推進室に迎える。三宅さんもまた、当時のMA(マーケティング・オートメーション)の活用に課題を感じていた一人だった。「Pardot(当時)には、マーケティング活動を行うための機能がたくさんあるにも関わらず、当時は「セミナー」や「資料請求」の申込フォームを制作する機能と、メール配信機能の2つしか使えていませんでした。また、コーポレート部門に所属していた情報システム部にいると、各事業部の動きや情報のキャッチに時間がかかり、お客様にタイムリーな情報提供ができず、コーポレート部門がPardot(当時) を活用すること自体に、個人的には限界を感じていました」(三宅氏)斎木さんが率いる部門に三宅さんが加わることで、情報も綿密に連携できるようになり、対応のスピードも格段に早まった。そして2019年、ワンマーケティングのAccount Engagement(旧Pardot)リカバリープランを活用して、デジタルマーケティングと組織づくりの基盤が整っていく。リードライフサイクルをつくり込み、マーケティングと営業の接続点をつくる「ワンマーケティングさんは2016年ごろに一度勉強会を開催してくださり、その時の話がとても分かりやすかったと、当時参加したメンバーから聞いていました。今の部署に異動してから、Pardotの活用について感じていた課題をご相談したところ、一方的な提案ではなくJMAMの現状に寄り添った提案や方向性を丁寧に提示してくださったので、ご相談しているうちにやりたいことのイメージが明確かつ具体的になりました。」「一番驚いたのは、専門的なシステムのノウハウだけではなく、コンテンツやマーケティングの知識にも精通していて、困っている現状をすぐに理解していただけたことです。これまで、両方の専門知識を持ち合わせる方にお会いする機会がなかったので、どんどん話がまとまり、希望の光が見えたのを思い出します。」三宅さんはワンマーケティングとの出会いをそうふり返る。リカバリーは、Salesforce・Pardotの顧客データの整備からはじまり、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)のツールであるFORCASの情報を活用しながら、「ロイヤルカスタマー」「既存」「新規/休眠」の大きく3つにターゲットを分類。さらに、それぞれにターゲットの優先順位をTier1~Tier3まで3階層設定し、ポテンシャルのある企業を「アカウントターゲット」として抽出していった。ターゲットの分類と、それに基づいて各施策における有効性を示した図表さらに、リードライフサイクルを構築し、はじめは「更地→種まき→発芽→満開→収穫→リサイクル→除外」という呼び方で、MAで算出したスコアに基づいてリードをステージ管理するための基盤をつくり、運用をスタートした。「Webサイトもリニューアルを行い、ページごとに重みづけをしたスコアを設定することで、見込み客のスコアが今何点なのかという状況がリアルタイムで見られるようになりました。しかし、1年目はそれを営業のみなさんに活用してもらうという次のステップには到達できませんでした」と三宅さんは語る。データ基盤が整い、リードステージも順調に上がってきている。しかし、だからと言ってすぐに営業が動いてくれるわけではない。マーケティングと営業をうまくつなぐ接続点をどのようにつくるか、という所が次の課題となった。「私たち(マーケティング部隊)が、『スコアが100点になったから、アプローチしてください』とお願いしても、営業の方は、『スコアって何?? スコアが100点を超えたからといって、突然電話するのは違和感がある』という反応が多かったです。そこからインサイドセールスの組織を立ち上げるところもワンマーケティング様に支援してもらい、ステージ管理の仕組みを変えようということで、全8回のワークショップを行いました。例えば、ステージごとの定義を見直したり、「収穫」といったステージの呼び方を変えることにしました。「CSC-0,1,2,3」と数字が上がるほど案件に近づいているということがイメージできるよう、分かりやすい名称にして、もう一度リードライフサイクルを設計しなおしました。」(三宅氏)そこから、営業の中にも協力してくれる部署が少しずつ現れ、そのチームとの連携から案件が生まれはじめた。「うちのグループもやりたい」「このステージって、どういう時にどう変えているの?」と、営業の方から問い合わせも舞い込んでくるようになった。「先日、全国からマネジメント層が参加する会議が開かれたのですが、我々から話題をふらなくても、スコアによってアポイントを効率的に取ることができている、というような報告が出てきていて、今までは考えられない光景ですよね」と斎木さんは笑う。構想は大きく具体的に、実践は小さく確実に現在、斎木さんが率いるHRM統括本部は、三宅さんが主査を務める「デジタルマーケティング推進部」、インサイドセールスを担う「カスタマーサービス推進部」、J.H倶楽部というコミュニティや会報誌を通してファン層との交流・対話を強化する「JHC推進部」という3チーム体制へと拡充。お客様に提供できる価値とLTVを最大化させるために、部内でも顧客接点を継続させ、深めていく仕組みができあがってきた。わずかな人数でスタートした組織も、年を追うごとに人員が倍増するほどの勢いで、数十名の大所帯へと成長を遂げてきた。その牽引役である斎木さんに、改めて、組織づくりにおいて大切にされていることを伺ってみた。「『構想は大きく具体的に』、そして『実践は小さく確実に』ということを心がけています。『構想は大きく具体的に』ということについては、経営トップや各部署のキーマンたちと対話を重ねていくうえでも、やはりビジョンとエビデンスは絶対だと思います。会社に対する危機感があったとして、それを愚痴や文句、批評・批判で終わらせるのか、自分がどう変えたいのかを示せるのかで全然違う。それをするためにはエビデンスが必要で、効果を数字で示していくことが求められます。これは『実践は小さく確実に』というところにも通じるのですが、夢だけを語るのではなくて、どういう変化を起こせているか、起こせていないかということをしっかり伝えていくことが大切だと考えます。そうすれば必ず「私もやってみたい」という人が現れてくれるので、その人たちの悩みや課題に対して、しっかりコミットしていくことを大切にしてきました」(斎木氏)「たとえば、2年ほど前からデジタルマーケティング推進部のメンバーたちがワンマーケティングと一緒にコラムの徹底強化に取り組んできたのですが、人的資本関係のページで多くのキーワードが検索上位にのぼるようになりました。何かを検索した時に、お客様だけでなく経営層や営業のメンバーも「あれっ?これうちのページだ」と気づいてくれて、変わってきているなという雰囲気が社内外に伝わっていきました」(斎木氏)“一気通貫”だからこそ、道が拓けたAccount Engagement(旧Pardot)のリカバリーを開始してから、およそ4年。一歩ずつ確実にやるべきことを積み重ね、マーケティング・インサイドセールスと複数の営業部門が連携して“一気通貫”で顧客へアプローチし、案件化を果たせるところまで道ができてきた。ワンマーケティングが伴走してきたHRM統括本部のロードマップ「お客様に提供できる価値や、お客様が何を知りたいのかを追求していこうと考えた時、“データベース”と“一気通貫のマーケティング施策”が重要だと思います。そして、それを戦略のところから一緒に考えて実行できることがワンマーケティングさんに依頼する大きな理由になっています。たとえ、社内にマーケティングの部隊がいたとしても、戦略やデザイン、システム、マネジメントというように分業されていくものなので、そこを広い視野から客観的に見てくれる外部パートナーへの投資は、絶対に必要なものだと思います。ワンマーケティングは“隠れた名店”として、あまり周りの人に教えたくないという複雑な心境もありますが(笑)」(斎木氏)「お客様に提供できる価値や、お客様が何を知りたいのかを追求していこうと考えた時、“データベース”と“一気通貫のマーケティング施策”が重要だと思います。そして、それを戦略のところから一緒に考えて実行できることがワンマーケティングさんに依頼する大きな理由になっています。たとえ、社内にマーケティングの部隊がいたとしても、戦略やデザイン、システム、マネジメントというように分業されていくものなので、そこを広い視野から客観的に見てくれる外部パートナーへの投資は、絶対に必要なものだと思います。ワンマーケティングは“隠れた名店”として、あまり周りの人に教えたくないという複雑な心境もありますが(笑)」(斎木氏)人の「成長」を大切にするJMAMでは、バリューのひとつとして「イコールパートナー」という言葉が掲げられている。お互いがパートナーとして成長し合えるように、JMAMとワンマーケティングの挑戦は続いていく。株式会社 日本能率協会マネジメントセンターHRM統括本部 本部長 / Learning Design 編集長斎木 輝之 氏(写真中央)株式会社 日本能率協会マネジメントセンターHRM統括本部 デジタルマーケティング推進部 主査三宅 裕紀子 氏(写真左)ワンマーケティング株式会社代表取締役社長垣内 良太