新規事業の立ち上げを一手に担い、わずか半年で、スキームをかたちにスイッチングハブを核として、オフィスにネットワーク機器や多彩なサービスを提供してきたパナソニックEWネットワークス様。コロナ禍で多くの人がリモートワーク・在宅勤務を経験し、オフィスという空間の在り方そのものが大きく様変わりする中、同社はソリューションの幅をさらに広げ、ワークプレイス環境の分析・改善を提案する『Welfeeldo(ウェルフィールド)』という事業をスタート。製品の提供に留まらず、これからの「働く環境づくり」をトータルでサポートする「マルチソリューションカンパニー」として、存在感を強めようとしている。『Welfeeldo』の事業立ち上げを一手に担うワークプレイス事業推進部 部長の福島嗣雄(ふくしま つぎお)さんは、新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあった2020年10月に着任して以来、お客様への訪問営業も一切行えない状況のもとで、事業を軌道に乗せるためのスキームを描いてきた。「もともと前職でも、法人向け事業の営業とマーケティングを一から立ち上げた経験がありました。営業スタッフのリクルーティングから始めたのですが、優秀な営業の方をすぐに採用するのは簡単なことではありません。できるだけ営業活動を効率化しなければ事業自体うまく立ち行かないだろうと考え、マーケティング・オートメーションとセールスフォースを組み入れ、『THE MODEL』で提唱されているようなリードライフサイクルを採り入れながら顧客創出を目指してきました」と福島さんは前職での経験をふり返る。「その当時から、ワンマーケティングさんをはじめ、さまざまなパートナーの方と綿密に連携を取りながらスキームをつくり上げてきましたので、はじめからほぼ理想に近いかたちを導入できたという手応えがあり、事業自体も右肩上がりで伸びてくれました。その経験を活かしつつ、今の会社に合うかたちを模索していきたいということで、再びワンマーケティングさんにお声かけをさせてもらったのです」ワークプレイス事業推進部に着任後、福島さんは「デジタルマーケティング」と「インサイドセールス」を軸に、1ヵ月ほどで全体的なプランニングをほぼ固めた。2ヵ月目には、マーケティング・インサイドセールス・営業代行、それぞれの領域ごとにパートナー企業をアサイン。もともと社内でメール配信のみにしか使われていなかったマーケティング・オートメーション「Account Engagement(旧Pardot)」のリカバリーをワンマーケティングが担い、一から環境を構築し直してマーケティング基盤を整えていく。さらに、併行してコンテンツの計画と整備も進め、3ヵ月ほどの制作期間を経て、2021年春にはオウンドメディア『Switch Times』の運用をスタートした。サイトのコンセプト設計やコンテンツの企画・制作、マーケティング・オートメーションの運用まで、一気通貫でワンマーケティングが支援。https://panasonic.co.jp/ew/pewnw/switch-times/着任からわずか半年弱というスピード感で、オンラインを介してリード(見込み客)を獲得し、インサイドセールス、営業へとバトンをつなぐスキームが稼働しはじめた。専業者たちのノウハウやツールを組み合わせ、“ハイブリッド”にPDCAを回す福島さんはなぜ、これほどのスピードでセールス&マーケティングの仕組みを構築することができたのだろうか。「幸いなことに、新事業の立ち上げ担当者として必要なことを自分自身の一存で動かせるような体制を敷いてもらい、予算も付けてもらいましたので、社内調整や合意形成はかなりショートカットすることができ、恵まれた環境だったと考えます」「そしてもうひとつ、大きいのがパートナーである専業者たちの存在です。ワンマーケティングをはじめとするパートナーの皆さんは、『これは持ち帰って考えさせてください』と時間を置くことがほとんどなく、その場でどんどん意見や具体策が出てくる。教科書的なセオリー通りのコンサルティングではなく、一緒に考えて新しいものをつくっていける関係性が、とても有り難いと感じています」さらに、既存事業の顧客とはターゲットがまったく異なる新規事業のため、それに見合ったターゲティングを行い、効果的なアプローチを仕掛けていく必要があった。福島さんは日本にまだABM(アカウント・ベースド・マーケティング)という概念が広まる前から一早くABMツールを採り入れきた経験を持ち、今回も最初から「FORCAS」を導入。加えて、インサイドセールスのパートナーが独自に保有する顧客データベースも活用した。「架電結果の情報をそこに入力することによって、自分がターゲティングしたお客様に対して、実際どうだったかをすべてデータで検証できるんです。私はマーケティングにおいて、実際のデータをもとに試行錯誤を重ねていくことが重要だと考えているのですが、その辺りをPDCAで回すことに関しては、なかなかゼロから自分たちでつくるのは難しいのでね。架電内容やトークスクリプトの分析はまた少しMAとは違う領域ですから、さまざまなツールを組み合わせて“ハイブリッド”でつくり上げていく手法を取りました」事業の“サステナビリティ”のためにも、一人の専任者の育成ではなく、複数の専業者とのコラボレーションが重要この新規事業において、福島さんは積極的に、社外の専業家たちの力を採り入れてきた。「事業としての“サステナビリティ”を考慮すると、プロパーの社員だけに頼ってしまう、しかも限られた人に頼ってしまうというのは非常にリスクがあります。社内でプロパーを育てるとともに、その人がいなくなっても回せるようなかたちをつくらなければなりません。特に、マーケティング・オートメーションの実務を担える人材は今稀少ですから、いろいろな研修に参加してもらってスペシャリストを育てても、その人はまず転職すると考えておいたほうがいいかもしれません。だから、専業のパートナーたちに持続的にノウハウやリソースを供給してもらいながら、自分たちの会社にそのスペシャリティを導入していくことが重要だと考えています」新事業立ち上げのスピードアップだけでなく、その先の持続性まで見据えたうえで、社外パートナーの力を活用する。さまざまなスペシャリストを集めて事業をつくり上げていく仕事を、福島さんは以前から「オーケストレーション」という言葉で表現している。「いくら世界的に有名なピアニストやバイオリニスト、コンダクターを集めたところで、急に演奏してくださいと言っても、みんながバラバラでは良い演奏なんてできないですよね。だから最初にトーンセッティングが必要です。みんなそれぞれの音の出し方、特徴を捉えたうえで、それを組み合わせてどういう音を出したいか、つくり上げていく作業が大切になります。」「さらに言うと、オーケストラ的なチームビルディングだけでなく、やっぱりジャズ的な要素も必要なんですよね。相手がアドリブでこういう音を出してきたら、こっちはこんな音が出せるよ、というコラボレーションを通して演奏をより高い次元に持っていく感覚です。仕事のパフォーマンスは、一個人ではなく、人と人との反応の中で発揮されていくものだと思いますから、この辺りを上手くやらないとビジネスは成功しないだろうと考えます。そういう意味でも、ワンマーケティングは私にとって非常に良い掛け合いができるパートナーです」お客様とのタッチポイントを設計し、“連続したメッセージ”を発信していく福島さんが新規事業の立ち上げに参画しておよそ2年。マーケティング・オートメーション 「Account Engagement」の運用環境をリカバリーするとともに、セールスフォースとの連携もはかり、あらゆるデータをひとつにつなぐ環境が整いつつある。インサイドセールスのパートナーにもSalesforceを活用してもらい、顧客データを一気通貫で管理しようという動きが進む。「特に大切な要素のひとつが、お客様のデータを“リサイクル”するという考え方です。典型的な例で言うと、最初にオウンドメディアに訪れていただいたお客様に対して、メールアドレスなどを取得してタギングを行い、いろいろなエンゲージメント施策を実施しながら、さらにセミナー、展示会で関係性を醸成していき、営業が動いていく。しかしBtoBの営業は複雑なので、まずユーザーと実際にお金を使う人が違います。お金を使うためには社内稟議が必要なので、担当者・決裁者も出てくるというようにプレイヤーが非常に多い。だから、時間もかかる。1回商談に行ったから買ってくれるなんていうことはまずないので、今ダメでもいつ良いお客様に変わるのか、ちゃんとフォローしておかなければ分からないわけですね」ワンマーケティングも併走し、ともに試行錯誤を重ねながら、リードライフサイクルを枯渇させることなく回し続ける体制ができあがってきた。「結局、何だかんだと言いながら、タッチポイントをどう設定していくかがすべてだと思うんですよ。あらゆるタッチポイントでお客様に接しているわけですからね。1回きりではなくて、いろいろな接点で連続したメッセージを出し続けて、お客様をよりファンにしていく、より深く理解を持っていただいく。そうして商材を「買いましょう!」というところまで持っていくのは、いろいろな要素を絡めた複合技になりますね」新規事業でできあがった“型”を、既存事業へと広げていく新規事業におけるビジネスモデルのかたちができあがった今、その仕組みを社内の既存事業に広げる、という新しいアクションも動き出している。「スタートアップでゼロイチから事業を生み出すほうが、シンプルかもしれません。当社の場合は、長い歴史をもつパナソニックグループの企業ですから、商流も複雑に入り組んでいますし、営業の仕方も商流によってそれぞれ変わってきます。教科書的なやり方をそのまま導入するのは無理だと、もともと思っていました。だから、新事業でかたちをつくり、それを既存事業に適用していく中で、従来の事業に合ったやり方に変えていかなくてはなりません。それを今、試行錯誤しながらチームで進めています。そこには正解が無いし、状況とともに求められる正解はどんどん変わっていきます。ワンマーケティングのように、決まり切った答えに囚われず、一緒に動きながら考えてくれるパートナーが必要なのです」パナソニックの創業者、松下幸之助さんも「衆知を集める」という言葉を遺されているように、福島さんたちのチームは関わる全員がスペシャリストとしてお互いの知を出し合い、お互いの音色を活かし合いながら、ともに前へ進もうとしている。(写真中央)パナソニックEWネットワークス株式会社ワークプレイス事業推進部部長福島 嗣雄 氏(写真右)ワンマーケティング株式会社代表取締役社長垣内 良太