ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は、2000年代初頭に開発されたマーケティング手法で、近年のDXの進展に伴い、再び注目を集めています。ABMでは特定の企業アカウントに焦点を当て、カスタマイズされたマーケティング戦略を展開することで、高いROIを実現します。しかし、必ずしもすべての企業がABMで成果をあげられるとは限らず、向き不向きもあります。そこで、具体的な活用事例を学び、自社の活用に役立てることが重要になります。本記事では、ABMを導入して成果をあげた企業の事例を8つ紹介し、成果を出しやすい企業の特徴まで詳しく解説します。ABMの導入を検討している企業はぜひ参考にしてみてください。ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の活用事例8選効果的なマーケティング施策を展開できている企業の具体的な取り組みを見ていきましょう。NECのABM活用事例NECのABM活用事例として特筆すべきは、2017年4月に日本企業として史上初めて「Markie Award」のABM部門のファイナリストに選出された実績です。NECがABMで高い成果を上げている背景には、「マーケティング」と「インサイドセールス」、「営業」の3つの部門の緊密な連携があります。これらの部門は顧客情報を共有し、部門間で分断されがちな情報を一体化することで、顧客理解を深める体制を整えています。特に顧客リードの管理では、MAツールを使用してリアルタイムでリードを生成し、それをSFA(セールスフォースオートメーション)と連携させています。このプロセスにより、マーケティングから営業へのスムーズで迅速な情報の流れが実現され、チャットツールを用いて、営業担当者に迅速にフォローを促す体制が整っています。また、NECはインサイドセールスを非常に重視しています。インサイドセールスチームが、より精密なリードだけを営業に引き継ぐ体制を築いています。その結果、営業チームは事前に得た情報を基に、精度の高い提案を行い、効果的な商談を展開することができています。さらに、NECは一貫したメッセージの発信にも力を入れており、社内外の多様なコンタクトポイントを活用しています。コーポレートサイトや会員制のオウンドメディア「wisdom」、ペイドメディア、ソーシャルメディア、モバイルアプリなどを通じて、顧客が異なるメディアを介して接触する機会を増やしながら、一貫したメッセージを保つ戦略を採っています。このようにNECは、部門間の緊密な連携、精度の高いリード管理、一貫したメッセージ発信といったABMの取り組みを通じて、高いマーケティング効果を上げることに成功しています。村田製作所のABM活用事例株式会社村田製作所は多岐にわたる電子部品を製造している企業です。多くの製品群の中から、顧客に最適な製品の提案をできるように、ABMを導入しました。ABMの導入に伴い、村田製作所は名刺情報を営業支援システムに登録し、このデータをMAツールに自動連携させることで、ターゲット企業の特定とアプローチを精密化しました。また、同社のWebサイトにターゲット企業の関心が高いコンテンツを公開し、MAを通じてターゲット企業にメールで情報を配信し、ダウンロードを促すキャンペーンを実施することで、36%という高いクリック率を達成しました。この戦略的なマーケティングアプローチでは、製品の特性と顧客のニーズを細かく分析することで、それに基づくマッチングを実現することが可能になります。村田製作所のABM活用事例は、顧客ニーズに合わせた製品提案と、精密なターゲティングによるマーケティング効果の向上を示す好例といえるでしょう。他の企業にとっても参考になる取り組みの多い活用を行っています。セールスフォース・ドットコムのABM活用事例株式会社セールスフォース・ドットコムは、クラウドベースのCRMやSFAシステムなどを提供する企業です。同社は事業運営において、情報収集に長い時間を要することや、収集した情報の質と量に課題を抱えていました。特に中小企業をターゲットとした場合、情報量の少なさが顕著であり、この問題の改善が急務となっていました。この課題解決のために導入されたのが、企業データプラットフォーム型のABMツールです。ABMツールの利用により、顧客情報の調査時間が以前の1社あたり2時間から30分に大幅に削減されました。この削減された時間を他の業務に充てることで、間接的に商談化率の向上にもつながりました。セールスフォース・ドットコムは、情報収集の効率化と質の向上を実現し、営業活動の生産性向上に大きく貢献しました。ABMツールの導入は、中小企業をターゲットとする際の情報不足の課題を解決し、効果的なマーケティングを可能にしました。PayPayのABM活用事例PayPay株式会社は、ABMを導入する前まで手動で顧客企業の検索と情報収集を行っていました。しかし、この方法では企業属性情報が不十分であり、マーケティングの効率化に課題を抱えていました。解決策としてABMを導入したことで、不足していた属性情報が補填され、企業別の傾向分析だけでなく、新規ターゲットリストの作成も可能となりました。具体的には、企業規模や業種、地域などの情報を活用し、ターゲットとなる企業を絞り込むことができるようになりました。また、各企業の特性に合わせたアプローチが可能となり、よりパーソナライズされたマーケティング活動を展開できるようになりました。ABMの導入により、マーケティングの精度と効率を大幅に向上させることに成功しました。ヤフーのABM活用事例ヤフー株式会社は、ニューノーマルにおける「新しい働き方」を追求する中で、ABMの導入を決定しました。同社は、顧客情報の「精度・鮮度・粒度」を重視したデータ管理の整備に注力し、顧客管理と洗い出しを徹底的に行うことで、重点優良顧客だけではなく、それに関連する企業や潜在顧客へのアプローチにも成功しました。その結果、BtoB市場での顧客化率が7倍に増加しました。ヤフー株式会社のABM活用事例では、適切なデータ管理と顧客の洗い出しが、高い顧客化率につながることを示しています。VAIOのABM活用事例VAIO株式会社は、かつてソニーの関連会社であり、現在はパソコン製造とEMS(エレクトロニクス製造サービス)を中心に事業を展開しています。具体的には、マーケティング部署と営業部署の連携を強化するために、MAとSFA、そしてABMツールを連携し、企業データの高度化を促進しています。その結果、両部署間の協働が進み、ワンチームとしての運営が実現しました。このABM活用により、BtoB事業が飛躍的に向上し、法人向けPC市場におけるシェアを向上させることに成功しています。VAIOの事例は、ABMがもたらす部署間連携の強化と、それによる事業成長の可能性を示す好例といえるでしょう。ロームのABM活用事例ローム株式会社は、1958年に設立された半導体電子部品のメーカーで、LSI、トランジスタ、ダイオードなどの半導体素子や、モジュール、抵抗器などの電子部品を販売しています。日本国内の多くの製造業から高い認知度を得ており、取引企業も多数ありますが、マーケティング機能のあり方について模索していました。営業は既存顧客のLTV向上を主な目的としていたため、ロームではABMを強化し、既存顧客向けのマーケティング活動を加速させることにしました。MAにABMツールを連携させ、企業情報の精度を向上させるとともに、既存顧客企業に紐づくリードを抽出しました。営業がタッチできていないリードへのフォローをマーケティング側で補完することで、営業との連携が加速しました。その結果、既存の取引先企業の中から新たな案件発掘などに寄与しています。ロームのABM活用事例は、既存顧客とのリレーションシップを深化させ、新たなビジネス機会を創出するためのアプローチとして注目に値するでしょう。LGIのABM活用事例株式会社LGIは、倉庫内業務における機械部品の仕分け、検品、運搬事業を展開しています。同社では、ABMを導入することで、リスト作成にかかる時間を大幅に削減することに成功しました。ABMの活用により、担当者の作業負担とコストが軽減され、業務効率化を実現しています。具体的には、従来の営業方法と比較して約50%の時間短縮を達成し、結果として2倍以上の作業効率向上を実現することができました。ABMの導入で成果が出やすい、出にくい企業の特徴ABMを導入する際、すべての企業で成功するわけではありません。どのような企業が成果を出しやすいか、出しにくいかの特徴を理解することが重要です。自社がABMに向いているかどうかを事前に評価することは、リソースの無駄遣いを防ぎ、戦略を効率的に進めるために有効です。以下で、それぞれの特徴についてご紹介します。成果が出やすい企業LTVの大きい事業モデルを持つ企業は、ABMの効果を最大限に発揮しやすいでしょう。LTVとは、顧客が商品やサービスに対し長期間にわたって支払う金額の総額を指します。高いLTVを持つ企業は、ABMを用いたマーケティング戦略により、継続的な収益増加を期待できます。また、中規模以上の企業もABMの成果が出やすい傾向にあります。ABMはターゲットを絞り込み、特定のクライアントから安定的に収益を上げる戦略ですが、その実施には大きなリソースが必要とされます。中規模以上の企業は、その規模ゆえに必要な工数を支えるリソースを確保しやすく、ABMの実施に適しているのです。さらに、営業部門の人的リソースが充実している企業も、ABMの成果を出しやすいと言えます。営業体制が整っていれば、複数の大規模事業を同時に扱うことができ、効果的なABMの展開が可能となります。営業部門と連携し、ターゲットとなる顧客に対して、きめ細やかなアプローチを行うことで、ABMの成果を最大化できるでしょう。以上のような特徴を持つ企業は、ABMの導入により高い成果を出しやすいと考えられます。自社の事業モデルや規模、営業体制を確認して、ABMの適性を判断することが大切です。成果が出にくい企業ABMの導入において成果が出にくい企業の特徴として、先ほどとは逆にLTVが低い事業モデルが挙げられます。このタイプの企業では、製品やサービスの利用が短期間、短頻度となる傾向があり、長期的な売上の獲得が難しくなります。したがって、ABMで要求される労力に対して十分な成果を上げることが難しいとされています。次に、業務が細分化され過ぎている企業も、ABMの成果を上げることが困難であるとされています。このような企業では、各部署が独立して目標や役割を設定しているため、異なる部署間での連携が困難です。スムーズな部署間の連携がなければ、ABMを効果的に運用することが難しいです。まとめABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は戦略的に重要な顧客アカウントに特化したマーケティング活動、営業活動を行うことで、高いROIを目指す手法です。日本国内では、VAIO、NEC、村田製作所など多くの企業が成功事例を持ち、顧客情報の精度向上や部門間の連携強化などの効果を得ています。しかし、すべての企業に向いているわけではありません。例えば、LTVが低い事業モデルを持つ企業では成果を上げづらい傾向があります。他社の事例や、ABMで成果が出やすい、出にくい企業の特徴を学び、自社への導入の検討、導入後の実践に役立ててください。さらに、本記事では紹介しきれなかった、ABMを実践する上での課題と解決策や、企業ごとのアプローチ施策の検討方法など、ABMのより具体的な実践方法をまとめたホワイトペーパーをご用意しました。BtoBマーケティング支援に特化したサービスを10年近くにわたって提供している「ワンマーケティング株式会社」が制作しています。ぜひ以下より資料をダウンロードいただき、お役立ていただければ幸いです。