
セールス&マーケティングの生産性を向上させるMAの全体設計の考え方
マーケティング施策を自動化し、受注確度の高い顧客をセールスへ送客するシステムにづくりに、MAはいまや不可欠な存在となりつつあります。
MAを効果的に運用するには、運用前の全体設計が鍵となります。
本記事では、セールス&マーケティングの生産性を向上させるMAの全体設計の考え方について、例を交えてご紹介いたします。
本記事の解説で用いる例について
本記事では、イメージをできるだけ膨らませて頂くために具体的な例を用いて解説ができればと思います。
今回は、以下のシチュエーションを想定して、本記事を読み進めてください。
事業内容 :自社MA(マーケティング・オートメーション)の販売
自身の役割 :自社MA販売強化のためのセールス&マーケティングの仕組みおよびMAの設計構築
ターゲット像を言語化する
ターゲット像を言語化するメリットは?
全体設計を始める前に、まずはターゲットとなるお客様のイメージを具体的に言語化する作業が必要です。イメージが鮮明になることで、全体設計における購買プロセスの作成から、どのような アプローチが有効かといった施策立案まで、様々なメリットがうまれます。

まずはシンプルに、6つの項目を言語化する
この言語化の作業は非常に奥が深く、何十もの質問項目に回答したり、営業へのインタビューを行ったり、WEBのアクセスを解析したり・・・どこまでもきりがない作業です。
最初からすべてを網羅した完璧な顧客像を作成しようとすると、膨大な時間や手間・労力が掛かり、心が折れてしまいます。
まずはシンプルに、以下の最低限の項目を言語化するところから始めてみましょう。この資料ではMAの販売強化という設定なので、MAの販売対象であるマーケティング部門の方を言語化していきます。
<最低限の言語化項目>
業界・業種: すべての業界
所属部門 : マーケティング部門
役職・職位 : マネージャークラス
仕事内容 : マーケ部門の数値の管理・営業部門との連携・ツール導入
業務目標 : マーケ部門が獲得した見込み客からの新規受注件数
興味関心 : 目標達成のための施策アイデア、最新ツール情報。マーケティング業界の最新トレンド
まずは上記6項目の言語化で問題ありません。シンプルにやってみることを重視しましょう。
改善を繰り返すうちに「もっと精緻な顧客像が必要」となってきたら、次は以下の質問を参考にしてみてください。

ターゲットの購買プロセスを設計する
購買プロセスとは?
購買プロセスとは、お客様がどのような興味・関心・課題を持って情報収集をしていて 、どのように関心が移り変わり製品の購入に至っていくかをまとめたものです。
購買プロセスがないと、検討初期段階の方に後期向けの情報を配信してしまった結果メールを読んでもらえない等の現象が起きてしまい、有効なマーケティング施策を展開することができません。 全リストに向けた一斉メール配信やウェビナー等ではお客様には響きません。
検討段階に合わせた施策や情報を届けることが重要で、購買プロセスはこれらの施策を検討する上での大前提となり、MAの設計にも大きくかかわります 。
バイヤージャーニーの意味は?基礎知識や活用例・メリットも紹介 https://www.onemarketing.jp/knowledge/word/buyer-journey
購買プロセスの設計
実際に購買プロセスを設計してみましょう。 購買プロセスにはフェーズの考え方がいろいろありますが、現状維持・課題抽出・評価・比較・購入のプロセスで今回は考えてみます。 先ほど言語化したターゲットはどのようなプロセスを経て自社サービスの購入検討を開始するのか、想像し、言語化してみてください。

現状維持: 課題感がない状態
課題抽出: 課題感があり、解決策を探して情報収集している状態
評価 : 解決策の方向性が決まった状態
比較 : 購入する製品やサービスの比較をしている状態
購入 : 購入する製品やサービスが決定し、購買に移る状態
本記事ではMAの販売強化という立場なので、マーケティング部門マネージャーの購買プロセスを設計しました。
営業にヒアリングをしたり、実際に見込み客に対して自分自身が営業活動を行うことで 理解が深まることもあります。
最初から完璧を目指そうとすると非常に手間がかかるため、 まずはシンプルに作成し、徐々に改善を繰り返し、自社ターゲットの購買プロセス設計を目指していきましょう。
ステージを設計する
ステージとは?
獲得した見込み客が、どのようにアポ・商談や受注に結び付いていくのかという過程を区分し、見込み客の状態の変化を追跡できるようにするのがステージです。ステージを設計しMAに設定することで、マーケティングと営業活動のどこに問題があり、どこを改善しなくてはならないかが明確になります。
ステージの種類
まずはステージの種類について解説します。以下のように見込み客のステージと、担当部門を整理します。

まずは有望見込み客の定義を決める
上記の各ステージをターゲットの購買プロセスにかけあわせることでステージ設計を行います。
ステージ設計を行う際には、営業が接点を持ち始める有望見込み客の定義を起点に考えはじめるとスムーズに設計が進むので、まずは有望見込み客の定義決めから開始するとよいでしょう。
有望見込み客の定義は、営業やインサイドセールスに引き渡す基準となります。
見込み客が購買先をすでに決定した段階で電話をかけてもすでに商談の機会を逃してしまっており、不戦敗となってしまいます。
どの段階から営業が見込み客と接点を持っていれば受注可能性が高まるか?商談機会を逃さないか?がポイントとなりますので、営業とも議論しながら、「購買プロセスの、どのフェーズの見込み客から接点を持つべきか?」を検討してください。

ステージと購買プロセスをリンクさせる
有望見込み客の定義を起点に、その他のステージと購買プロセスをリンクさせステージ設計を行います。設計ができると、どの部門が「見込み客をどのステージまで育成するか」「どの 購買フェーズにいる見込み客を創出するのか」という部門毎の目標や役割分担が明確になります。

上記のステージ設計の場合、各部門の活動内容と目標指標は以下のように整理されます。

再育成の仕組みを設計する
最も望ましい見込み客の動きは、「育成見込み客 →有望見込み客→営業電話対象→営業商談対象→受注」と、最終ゴールである受注へ向けてステージが右へ右へと遷移していく動きです。
しかし実際には「電話でアプローチをしたが商談は必要ないと言われてしまった」「商談は獲得できたが、受注には至らなかった」といったように、保留や失注となるケースも少なくありません。
一度失注しても、また購買のタイミングがやってくるのがBtoB企業の購買プロセスの特徴で、初回営業訪問でアプローチを終了したうちの約80%が2年以内に競合他社から購入していると言われています。
BtoB企業の購買プロセスは情報収集に波があるため、継続的に接点を持つことが重要です。 保留や失注となった見込み客を放置するのではなく、再育成のステージを設けることで獲得した見込み客を漏れなく活用する仕組みを設計します。

ステージを移動させる条件を決める
ここまでの設計で見込み客の受け皿となる体制が整ったら、それぞれのステージからステージへと見込み客を動かす条件を決めていきます。

特に重要なのは、「マーケティング→営業/インサイドセールス」「営業/インサイドセールス→営業」という部門をまたぐ際の条件設定です。
有望見込み客の条件が緩すぎると「マーケティングの出す見込み客は実際にはまったく見込みがない」というような摩擦につながったり、営業商談対象にする条件が厳しすぎると 商談アポが創出されず 機会損失につながったり、ということも考えられます。
まずは仮説で決めることになりますが、運用する中で最適な条件設定を見つけていくという姿勢が必要です。
<MAによるステージ移動>
マーケティング部門が責任を持つ「有望見込み客の創出」までは、MAによるスコアリング機能の活用が有効です。
企業規模や見込み客の役職・所属部門といった「属性」と、どのような メールやページを閲覧しているかといった「行動」の2軸で有望見込み客の条件を設定・移動させるクロス・スコアリングを用いましょう。

<人の判断によるステージ移動>
営業電話対象以降のステージになると実際に営業やインサイドセールスが見込み客と接点を持ち、直接会話やメールでやり取りした上でステージ移動を手動で行うことになります。後半ステージになり人が介入すればするほど属人的になります。ここでのステージ移動には、以下の軸で判断をしていくとよいでしょう。
予算: 予算感として自社製品やサービスとマッチするか
決裁権 : 購入の決済にどれくらい関与しているのか
課題: 自社製品やサービスで解決できる課題なのか
時期: いつ頃を目途に購入を検討しているのか
営業商談対象ステージへの移動条件の例
・即導入を考えており製品に強い興味を持っているが、予算感にズレがあるので商談化はしない
・導入時期は不明だが、決裁権のあるリードが相手で、自社の商材があれば相手の課題を解決できそうななので、商談化する
MAに設定する(Marketoの場合)
ここまで設計してきた各ステージやステージ移動の条件を、MAの設定に落とし込む作業となります。
本章では、一例としてMarketo Engageの設定方法を解説いたします。
Marketo Engage の場合、社内の管理や処理に用いるデフォルトプログラムで設定を行います。スマートキャンペーンを作成し、スマートリストで対象の見込み客を抽出、フローではトリガーを用いて見込み客のデータ値の変更を選択し、ステージ変更の設定を行います。
例えば、「MAの概要に関するウェビナー登録」という行動に対してデータ値変換のトリガーが発動、値を「有望見込み客に変換」に変更する、といった設定するイメージです。
-デフォルトプログラムの選択
-スマートキャンペーンの作成
・スマートリスト 対象となる見込み客の条件を入力
例:MAの概要に関するウェビナーに登録した見込み客
・フロー トリガー_「データ値の変更」に行いたい内容を入力
例:ステージを有望見込み客に変換する
これで、「MAの概要に関するウェビナーに登録した見込み客を有望見込み客ステージに移動させる」という設定が完了します。このように、検討してきたステージ設計をMarketoの設定に落とし込んでいく作業を行います。
営業電話対象以降のステージで保留や失注となった際の再育成は、SFAとMarketoを連携して運用している場合、営業がSFA上で入力した電話や商談結果の活動記録の種別で「失注」のような項目を作成しておき、Marketo側では「失注」になったら「育成見込み客」にステージを戻す、という連携設定をすることになります。
実際に設定をするとここまでシンプルにはできないのですが、より具体的な設定の方法や管理のノウハウは弊社のMA活用支援サービスの中身になってしまいます。以上のヒントを参考程度にお伝えできればと思います。ご理解いただけますと幸いです。
全体設計後の運用改善
全体設計によって見えてくるもの

購買プロセス・ステージ設計といった全体設計ができると、各ステージにどれくらいの見込み客がいるのか、ステージからステージへの転換率はどれくらいなのか、といったステージ毎の実数値が見えるようになります。
課題の特定と解決策の検討
見込み客が受注に向けて右へ右へとステージを移動していくのが望ましいですが、すべての見込み客が右に移動するわけではありません。
実数値が見えることによって、どのステージで見込み客が停滞しているのか、どのステージからどのステージへの転換率が低いのか、つまりどのステージに課題があるのかを特定することができます。課題さえ特定できれば、解決のための施策を検討することができます。
例えば、育成見込み客のステージで停滞している方が多く、有望見込み客の創出数が少ないという課題の特定をした場合の課題解決の考え方は以下のようになります。
▼ケーススタディ
有望見込み客
購買フェーズ:課題抽出「デジタルマーケティングの体制構築をしなくてはならないと考えている方」
特に課題感のない状態である育成見込み客を有望見込み客ステージに転換する
→デジタルマーケティングを実施しなくてはという課題を持たせる必要があり
→ウェビナーやコンテンツ配信の施策を通じて、有望見込み客の創出数を増やしていく
・デジタルマーケティングへ移行しないと売上が立たなくなるといった危機感を募らせるような情報の発信
・デジタルマーケティング施策で商談件数や売上が伸びたという成功事例の情報を発信
マーケティング・セールス施策の整理と棚卸し
すべてのマーケティングとセールス施策の目的は、見込み客のステージを右へ移動させることです。全体設計が完成したら、今実施している施策はどのステージに向けた施策なのか、どのステージに対する施策が不足しているのか、を整理しましょう。
やみくもに施策を実施するのではなく、実数値をもとに特定した課題の解決のための施策を検討したり、施策が不足しているステージに対する施策の拡充を行ったり、全体設計図をもとに施策を検討することが生産性を上げ成果をあげる近道です。
まとめ
全体設計についてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。
全体設計するうえでのポイントは、大きく以下の4点に集約されます。貴社のマーケティング業務の一助となれば幸いです。
〔ターゲット像を言語化する〕
・まずはシンプルに、6項目を言語化する
・より鮮明にするためには、30の質問に答える
〔ターゲットの購買プロセスを設計する〕
・5つのフェーズで区分する
・フェーズ毎にターゲットの状態を考える
〔ステージを設計する〕
・ステージの種類を整理する
・有望見込み客の定義を決める
・ステージと購買プロセスをリンクさせる
・再育成の仕組みを設計する
・ステージを移動させる条件を決める
・MAに設定する
〔全体設計後の運用改善〕
・課題の特定と解決策の検討
・マーケティング・セールス施策の整理と棚卸しをする
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