マーケティングDXの舞台裏~アドビ社の実践~
目次
2023年7月21日に、弊社代表の 垣内が書籍『「売れる営業」を創出するBtoBマーケティングの「型」』を出版いたしました。
これを記念して、2023年9月5日に、アドビ株式会社の松井氏をゲストに迎え、対談講演「マーケティングDXの舞台裏 ~アドビ社の実践~」を開催しました。
本記事では、アドビ社におけるマーケティング部門の組織体制やレベニューモデルの管理についての対談内容をご紹介します。
松井 真理子氏
アドビ株式会社
DXインターナショナルマーケティング部フィールドマーケティングマネージャー
垣内 良太
ワンマーケティング株式会社
代表取締役
Adobe Experience Cloud製品のマーケティング全般を担当
垣内:
今日は、アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング部 フィールドマーケティングマネージャー松井 真理子氏にお話を伺います。まずは、自己紹介からお願いできますか?
松井氏:
私はアドビに2020年3月に入社しまして、現在DXインターナショナルマーケティング部に所属しています。
アドビには3つのクラウド製品群があります。みなさんがよくご存知のAdobe PhotshopやAdobe IllustratorといったAdobe Creative Cluod、PDFでおなじみのAdobe Document Cloud、そして私が担当するAdobe Experience Cloudになります。Adobe Experience Cloudは企業向けにマーケティングソリューションを提供しており、そこでフィールドマーケティングマネージャーという役割を担っています。
垣内さんの本を読ませていただきました。「はじめに」の部分で垣内さんが印刷会社に入る前から、今のマーケティングソリューションビジネスへの変遷が興味深かったです。この本を読むだけで、デジタルマーケティングがどれだけ進化し、そこに人が追いついていかないといけないのかが、分かるのではないでしょうか。
垣内:
ありがとうございます。僕は松井さんがアドビに入る前から存じ上げているのですが、もともとはセキュリティソフトウェア企業でマーケティング担当をしておられましたね。Adobe Marketo Engageのユーザーでもあり、今はAdobe Marketo Engageのマーケティング担当をされているんですね。
松井氏:
そうです。Adobe Marketo Engageというマーケティングオートメーションのマーケティングだけでなく、Adobe Experience Clound製品のマーケティング全般を担当しています。
BDR、CoEと協力して推進し、売上最大化を図る
垣内:
松井さんが所属する部門のミッションや機能を教えていただけますか?
松井氏:
営業組織は複数ありますが私はそのひとつを担当するフィールドマーケティングマネージャー(Field Marketing Manager 以下、FMM)をしています。担当する営業組織の売上を最大化するために、広告、ウェブ、メール、イベントなど様々なチャネルを介して製品・サービスを訴求するマーケティング施策を推進実行する役割を担っています。
マーケティングの組織は、マーケティングとBDR(Business Development Representative)と呼んでいるインサイドセールスがいて、私はBDRとCoE(Center of Excellence)と呼んでいる各チャネルのスペシャリストと連携して業務を進めています。
垣内:
マーケティング部門の中に、BDR、いわゆるインサイドセールスの部隊もいらっしゃるとのことですが、セールスはまた別にあるのでしょうか?
松井氏:
そうです。セールスは、別の部門です。
垣内:
ちなみにこのCoEの方々は日本在籍の方々ですか?
松井氏:
そうです。日本支社にいる方々です。
垣内:
なるほど。松井さんがこんなコンテンツを作りたい、こんなコンテンツが必要だとなった場合、テーマやターゲットを掘り下げてから、コンテンツの依頼をかけていくのですか?
松井氏:
そういうパターンもありますし、CoEからこういうのが必要ではないかと積極的にご提案いただくことも多いです。
垣内:
なるほど。ではこういうイベントがあります、出展しませんかというのはイベントチームから上がってきたりするんですか?
松井氏:
そういうケースもありますし、私から相談させていただくこともあります。
全てを「深く」ではなくても、「幅広い」経験が活かされる
垣内:
松井さんのビジネスの領域はかなり広いと思うのですが、どのようにカバーされているのですか?
松井氏:
私はアドビに入社する前もマーケティング担当として長くやってきていて、CoEの実務は、濃淡はありますがおおむね経験しています。最も専門性があるのは長期的なエンゲージメント創出です。イベントやウェビナーも多数主導してきました。コンテンツと広告はその中だと経験が浅いほうになりますが、流れや改善プロセスは把握しています。
垣内:
オフラインでのイベント経験のない方は、この3年間でかなり増えたのかなと思いますが……。
松井氏:
そうですね。私はマーケティングオートメーションが日本に来る前からマーケティングをしていて、どちらかというとオフラインのイベントの経験値が豊富です。たしかにここ2、3年でマーケティングを始めた方は、あまり経験がないかもしれませんね。
垣内:
そうですよね。やはりフィールドマーケティングのマネジメントをやろうと思ったら、経験値をかなり持っていないと難しいのでしょうか。
松井氏:
いえ、そんなことはありません。全てを深くやるのは難しいと思いますし、だいたいのマーケティング領域の概念や考え方が分かっている方であれば、フィールドマーケティングやマーケティングのマネージャーは可能ではないかと思います。
成功している人がアドビのユーザーだった、が理想
垣内:
リードジェネレーションのところ、リード獲得の件数やMQL(Marketing Qualified Lead)、ホットリードの件数はレポートしてきていらっしゃるのかと思うのですが、一方で松井さんといえば「MUG Day」というAdobe Marketo Engage のユーザー会を取り仕切られていますよね。その辺は、パイプラインを獲得するための活動の比重と、カスタマーサクセスのユーザーになっているお客様に対する比重とどちらが多いですか?圧倒的に新規のお客様を獲得するための活動が多いですか?
松井氏:
そんなことはないですよ。私がユーザーコミュニティを主導しているのは、ユーザーの活用を支援し、成功していくユーザーにご活躍の場を提供するためです。つまり、ユーザー露出の施策をマーケティングとして実施することで、新しいリードを生み出すサイクルを作ろうとしているのです。成功しているマーケターの姿に心動かされ、詳しく調べてみたら、たまたまアドビ製品を使っている事例だった、というのが一番理想だと思っています。
私たちはお客様を成功に導くこと、お客様に価値体験を提供していくことを大切に考えていますし、私の願いでもあります。そして、コミュニティを盛り上げることで、顧客事例コンテンツを作りやすい状態、つまりパイプライン創出に効きやすいコンテンツマーケティングができると感じています。
垣内:
素晴らしいですね。そういう計画があってやっていらっしゃるんですね。
7ステージ+リサイクルの8つでレベニューモデルを管理
垣内:
フィールドセールス、インサイドセールスとマーケティングという形ですと、体制はいわゆるThe Model型かと思うのですが、続いてThe Modelについてお伺いできますか?
松井氏:
はい。図1は一番右のWonの後(ご契約後)は表現していません。リード獲得から契約に至るまでのプロセスになります。7つのステージ+リサイクルと、全部で8つのステージで管理しています。実際とは異なる部分もありますのでご了承ください。
New、Response、AQLはマーケティングが担当する領域で、MALからMQOがインサイドセールス、SQOからWonがセールスの役割です。私たちはAdobe Marketo Engageというマーケティングオートメーションを活用し、データベースにないメールアドレスが入ってきたら、新しいリード、Newとしてカウントしています。メールのクリック、Webアクセスなど、何か能動的なアクションがあると、Responseのステージへ上がります。
垣内:
AQLはどのように決めていますか?
松井氏:
「行動スコア×属性スコア」で基準を超えたリードをAQL(Automated Qualified Lead)と呼んでいます。行動スコアはイベント登録や参加、ウェビナー、資料ダウンロード、Webフォームの登録、広告をクリックしてWebアクセスしたといった全てのチャネル別の各アクティビティ別にスコアが定義されています。例えば行動スコアが上がっても属性スコアが低ければ、AQLにはならないというルールがあります。
属性スコアは会社の従業員数や売上高、ターゲットにしているアカウントかどうか、そして役職が関係しています。名刺情報や企業データベースで判明できるスコアの基準が決まっていて、AQLがあぶりだされます。マーケティングは、このAQLの目標値を達成させるための活動を実施しています。
次のMALですが、インサイドセールスがマーケティング部門にいるため、ここはMAL(Marketing Accepted Lead)と呼んでいます。これはAQLであぶり出されたリードに対して、インサイドセールスがアプローチをかける際にステータスをMALに変えていきます。
垣内:
自分で変えていくんですね。
松井氏:
そうです。規定回数アプローチしても繋がらなければMALをRecycleにしていきます。BANT条件に合致したリードをセールスに渡す際は、MQO(Markething Qualified Opportunity)というステータスに変更し、インサイドセールスが商談を作ってセールスにパスします。
ステージごとの転換率を見て、施策を構築
垣内:
フィールドマーケティングマネージャーとして、どのようにKPI(Key Performance Indicator)を設定しているのですか?
松井氏:
アドビの場合、四半期ごとで全てのターゲットを決めて動いています。売上のターゲット金額が四半期で決まっていて、その金額を達成させるために一体いくつのSQOを作らなければいけないのか。MQO、MAL、AQL、Newと逆算して考えて、マーケティングの数字を決めています。
松井氏:
図2では分かりやすいように「金額」ではなく「件数」で例を示しました。例えばこの四半期でこのくらいの売り上げを出さなければいけないと、金額ベースでグローバルからおりていたとします。
これを達成するために、商談の平均単価で割って、SQOはこれぐらい出さないといけないと過去の転換率から算出します。その目標数値に向かって日々施策を回していくわけです。
垣内:
AQL、MQO、SQOの3つは特に見ていて、当然新規のリードがどれだけ入っているのかも見ているんですかね。
松井氏:
そうですね。これは過去の傾向値から計算するしかないのですが、例えばSQOを150件作るためには、Newのリードを5,000件作っておかないと、過去の傾向を見るとなかなか難しいといったことが出てきます。達成率が悪いところをカバーするためにマーケティングとして何ができるかを考えています。
垣内:
そのステージごとの転換率を見ていらっしゃるんですね。そのなかでもリードソースで細かく分析もされるのですか?
松井氏:
はい、やっています。
垣内:
リードごとにどれだけいるか、みたいなイメージでしょうか?
松井氏:
そうですね。大型展示会で、例えば5,000件のリード獲得があり、Newが3,000件あったとします。5,000件の目標値に対してはあと2,000件なので2,000件は他の施策で計画します。
展示会リードの貢献度はSQOの数や実際には金額でも確認しています。SQO貢献度の低い展示会の場合は、来年この展示会に出るべきなのか判断をすることになります。
商談化しづらいリードソースの見直しは日々行っています。
センタライズしたルールの決定で、ミスを防ぐ
垣内:
MAの設定は国内で行われているのですか?それとも海外で行われているのでしょうか?
松井氏:
オペレーションという意味での操作は、海外のメンバーがやっています。
垣内:
松井さんもデータを見たり、抽出したりはできるんですか?
松井氏:
私が入った時はプログラムの作成や設定部分は、全て各リージョンのメンバーが行っていました。しかし組織が大きくなっていくなかで、マーケティングオペレーションのモデルとしてはセンタライズという中央集権型の考え方で、しっかりしたルールに基づいて触れる人だけが触る形になっています。
日本に限らず、ほかのリージョンでもミスがないように、またトラッキングができないと困るので、FMMやCoEが実際にマーケティングオートメーションを触ることはできないというふうに今は変わってきています。
垣内:
まさにそのMOpsのチームが本国にあり、そこで中央集権的に取り扱うと。
松井氏:
そうですね。
垣内:
規模が大きくなって人数が増えてくると、事故であったりデータに揺れができたり、そういう懸念があったんですか?
松井氏:
恐らくそうなのではないかと想像します。私も前職ではMOpsのようなことをしていたので経験値として把握している限り、触る人が10人、20人になると、説明会やマニュアル整備を実施していても、ルールと異なるオペレーションが発生することがあります。そうなると、レポートに影響することもありますし、各チャネルの効果も正確に算出することが難しくなる場合があります。
例えばROI(Return on Investment)の観点から金額を各プログラムに入力することになっているのですが、空白になることがあると正確なROIは測れません。現在のようなグローバル組織にフィットするオペレーションモデルとして、センタライズにする選択肢になっているのではないかと私は予測しています。
垣内:
松井さん本日はどうもありがとうございました。
この記事の著者
ワンマーケティング Web編集チーム 監修
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