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『THE MODEL』出版記念 Marketo 福田 康隆 氏 インタビュー 〜THE MODEL の今とこれから〜【前編】

福田 康隆 氏(写真右)

アドビ システムズ 株式会社 専務執行役員 マルケト事業統括

垣内 良太(写真左)

ワンマーケティング株式会社 代表取締役社長

「形から入る危険性」と、「正しい認識の必要性」を感じた

垣内: この度は、出版おめでとうございます。福田さんはこの本で書かれている「モデル」を提唱し、ずっと実践もされてきたと思うのですが、なぜこのタイミングで本を出されたのでしょうか?

福田:私は2005年にアメリカから帰国して、マーケティングからインサイドセールス、営業へとつながるオペレーションを日本で実践してみようとビジネスに取り組んできました。この数年、日本では「SaaS(Software as a Service)」や「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」という言葉が、急速にブームのようなかたちで取り上げられるようになってきました。それ自体はすごくいいことだと思うのですが、さまざまな方とお話をする中で、「形から入っていこう」とする人が多いことに気がついたのです。

垣内:ああ、なるほど。それは私も感じることがあります。

福田:あるセミナーで質問を受けた時に、「SaaSの会社を立ち上げたので、まずカスタマーサクセスから始めようと思います」という方がいたり、「やっぱり今はインサイドセールスを立ち上げないと駄目ですよね」という話が来たり。そもそも、その会社の事業は、どのような事業なのか。たとえば、一言でSaaSと言ってもフリーミアム的に広がっていくビジネスなのか、高額商材なのか。「自社の事業を分析しないまま形だけ当てはめるのは危険だな」と感じる場面がたくさん出てきたのですね。

私自身も「モデル」の運用に10数年携わってきて、失敗もたくさん経験しましたし、うまくいったこともたくさんありました。その経験をまとめることによって、より正しい理解が広がっていけばと考えたのがきっかけです。

はじめのイメージは、アメフトのPLAY BOOK(=作戦指令書)

垣内:本の構想には、どれくらいの期間をかけられたのですか?

福田:はじめは、セミナーで1時間くらいのコンテンツをつくろうかと思ったのですが、限られた時間では、どうしても分業制のもとでの個々の課題について話が集中してしまい、そこで理解が止まってしまうような気がしたのですね。これはやっぱり本にするしかないと出版を決意しました。

福田:最初にセミナーをしようと考えたのが一昨年の秋で、その後、本にしようと思ったのが2018年の年明けあたりでしたから、ちょうど1年をかけて上梓した本になります。

実は、もともとタイトルも『THE MODEL』ではありませんでした。はじめは「PLAY BOOK」という言葉を使おうかと。アメリカン・フットボールの世界では、このフォーメーションではこういう時に誰が動くとか、チームの役割がどのように動いていくかということをまとめた作戦指令書のようなものをPLAY BOOKと呼んでいまして、そのイメージで考えていたのです。しかし、たとえば「SALES PLAY BOOK」という名前をつけると営業だけに限定されてしまうし、「THE PLAY BOOK」だと何の本か分からない(笑)。

現在、『THE MODEL』という言葉が少なくともSaaSの考えを持つ方たちには広まりつつあることから、この言葉を使って正しい認識を広めていけたらと考えました。

垣内:なるほど。とても良いタイトルだと思います。

福田:注意点として、すべてを「モデル」に当てはめるべきだと考えてしまうことは危険だと思います。実際のビジネスでは、販売代理店さんからの案件もあれば、営業が自らの人脈を活かして顧客を発掘することもあります。無数のプロセスがある中で、この本はあくまで、あるビジネスを雛形にしたひとつのパターンであって、「その根本にあるものが何か」ということを理解し、自分たちの会社に合ったものをつくってもらいたい。それが、この本の大きなテーマになっています。

分業ではなく共業として、全体を見るバランス感覚を

垣内:もともと「PLAY BOOK」というタイトルの構想もあったということで、本の中ではフォーメーションの全体像から、指揮官が担うべき役割であったり、個々のプレイにおいて具体的なここで躓くだろうポイントであったりが、すごく緻密に書かれています。とても幅広い読み方ができる本だと思うのですが、どんな方にどのように役立てて欲しいとお考えですか?

福田:ひとつは、組織の中で営業やマーケティングのマネジメントを担っている方ですね。SaaSの会社であれば、マーケティングとセールスを横並びで見ているというケースも多いと思うのですが、そういった中で、自分の部門という縄張り意識のようなものを持たずに、「もっと全体を見るんだ」と意識を持ってもらいたいと考えています。

次世代のリーダーたちにはぜひ、「分業」ではなく「共業」として組織全体を見るバランス感覚を身につけてもらいたい。そこまで見られて初めて、ビジネスの楽しさを実感できると思います。

福田:もうひとつ、本にも書いているのですけれど、私は『THE GOAL』という本を2001年に読んで、大きな影響を受けました。生産管理の本なのですが、「これを営業に当てはめるときっと面白い」「将来こういうことをやってみたい」と興奮したのを覚えています。

当時はその権限もなく何もできなかったわけですが、同じように今若い人にも、この本から何らかのインスピレーションを得て、「将来こういう世界に進んでいきたい」と思ってくれる人が一人でもいたらうれしいですね。

「リサイクル」という概念も、実体験から生まれた

垣内:福田さんの「モデル」に影響を受けている方は、たくさんいらっしゃるのではないかと思います。モデルはどのようにして、現在のかたちに至ったのでしょうか?

▼2004年当時の「レベニューモデル」

※書籍「THE MODEL」より引用

▼2004年の「レベニューモデル」を発展させたプロセスの全体像(2018年作成)

※書籍「THE MODEL」より引用

福田:はじめから上手くいったというよりは、日々さまざまな課題にぶつかりながら、どんどん修正を重ねてきました。たとえば、リードが入ってきて、コンバージョンして、インサイドセールスにつないで、そこから商談化して……。その流れさえ滞らないように問題点を押さえていけば、けっこう簡単にビジネスは回るように最初は思えてしまうんですよね。ところが、それだけでは何年も続きませんでした。アプローチできるリードが枯渇していくのです。

垣内:そこから、本でも強調されていた「リサイクル」という考えが生まれたのですね。

福田:実際にやってみないと、分からないことでした。スプレッドシートにいくらデータを埋めても、ロジックが合わないところが出てくる。そこで初めて、見込み客がまた戻ってくるという可能性に気づくわけです。

言われてみれば当たり前の話で、新しい発見でもないわけですが、ビジネスとして実践した後でそれに気づくと、どう手を打とうかと前へ進める。その腹落ち感ですね。こうしたことを本当に一個一個詰めながら、ここまで歩んできました。今も日々何か新しい課題が生まれるので、それをどう修正していこうかという繰り返しです。

ニーズと人材のギャップを埋めるために

垣内:国内のマーケティング市場やMAを取り巻く状況というのは、福田さんの目にどのように映っていますか?

福田:MAというツール自体は、恐らく私が今まで見た中でも、一番速く浸透しているITソリューションだと感じています。

垣内:SFAもそうでしたが、普通はかなり時間がかかりますからね。

福田:かかりますよね。SFAの概念や必要性が広く認知されだしたのも、つい最近のことではないでしょうか。

そう考えると、これほど速く浸透していくものは稀だと思います。しかし、それと「実際に活用されているか」「効果を出しているか」は別の問題です。やはり進めば進むほど、人材不足というところに行きつくと思います。ニーズと人材にギャップが生まれてきていますから、将来を見据えて人材の育成・教育にどれだけ時間を割けるかが、長く繁栄していくための勝負だと考えています。

垣内:Markero自体がお客様の人材を育成するという構想はあるのでしょうか?

福田:私たちもさまざまな取り組みを試みてきましたが、一社でできることではないので、競合がどうという話をする前に、市場の裾野を広げることが先決です。日本というマーケットに、どれだけ人材が増えるか。そのために今、会社という枠に囚われない活動が求められていると感じます。

垣内:この本もまさに、実践の書として、これからの人材育成に貢献していくのではないでしょうか。

福田:そうなれば嬉しいですね。そういうことも踏まえて、本の中にはMarketoの活用などについては一切書かないようにしました。

垣内:たしかに、Marketoという言葉さえ、ほとんど出てこなかったですね。

福田:プロセスや人材、組織、戦略などの考え方をまとめ、色々な人が売上全体を作り出すプロセスを語る土壌ができればと思い、Marketoや特定のITツールの話は出さないようにしましたね。

絶対に、ITツールは使いこなした方が良い

福田:ツールに関してひとつお伝えしたいのは、本の終わりにも書いたのですが、私はずっとERPからCRM、MAと渡り歩いてきて確信しているのは、絶対にITツールは使いこなした方が良いということです。

「ツールを使えば成功すると思ったら大間違いだ」という方もいて、仰る通りなのですけれども、私は世の中にそこまで単純な人はいないと思っています。「MAを使うことがマーケティングだ」「MAを使えば勝手に効果があがる」なんて信じている人はいないと思うのですね。

では、何をしなければいけないかというと、自分たちがやりたいマーケティングを「こういう方向だ」と定めて、目指すものと合致するコンセプトを持ったツールを見つけることだと思います。

大枠でも「コンセプト」を掴むことが、ツールを活かす近道

垣内:ツール選定の場面では、どうしても表面的な機能や、価格に意識が向けられがちです。

福田:どの分野でも、やはり良い製品には、開発者の「こういう世界観をつくりたい」というコンセプトが詰まっています。「こういう機能があったら売れる。だからつくります」という製品ではなく、「こういうマーケティングをしたいから、こういう機能をつくる」という思想があるべきだと思います。

その思想が自社に合っていれば採用すればいいと思いますし、合わなければどんなに周りが使っていても、きっと合わない。

垣内:おっしゃる通り、万人のためのツールは無いということですね。私たちも最近、それを実感しています。ツールにはそれぞれの思想があって、そこを見誤るとやはり失敗します。

福田:私たちベンダーもそうなのですが、ユーザーのみなさんも、そこに深く意識を置いて勉強することが大切だと考えています。まずは、自社の世界観と合っているかどうか、やりたいことと合っているかという「コンセプト」を大枠で理解できた組織が、たぶん早く成功を収める。それが、ツールという武器を最大限生かす近道ではないでしょうか。

まずは、プロセスを徹底的に理解する。次に、さらに大事なものを知る

垣内:この本を読みこんで実践に活かそうという方が、これからどんどん出てくると思うのですが、まずどんなことから始めていくべきでしょうか?

福田:まずは、プロセスのところを徹底的に理解することが大切になると考えます。この本では「プロセスへの理解」が、前半部分の肝になっています。結局、これまで何が問題だったかと言うと、いろんなものが曖昧なままだったことです。

たとえば、マーケティングの効果は何で測るのか。その定義だって、バラバラだったわけです。最終形をロイヤルカスタマーだとして、入り口からそこまでの全工程を見渡して、それが正しいか正しくないかは別として、どこに見込み客が存在するかを決めていかなきゃいけない。その時にやはり遷移基準というものをきちんと設けること。「なぜ、これを設計するのか」ということを理解した上で、その訓練をいろんなビジネスを通して徹底的に繰り返す。きっと見えてくるものがあると思います。

そしたら次は、「プロセスだけを理解しても動かない」ということが分かる(笑)。

福田:結局、動くのは人なので。インサイドセールスひとりの行動をとっても、マネージャーがこう突付けばこの人はこう動くだろうということが、やはりあるわけです。そこを肌感覚で掴めるまで繰り返しやっていくと、「やっぱり人に重きを置かなきゃいけない」ということが分かってくる。

そういう手順を自分で一度踏んでみることが大切ではないでしょうか。実際のビジネスでは、これらを通して初めて全体が回り始めます。ですからこの本でも、プロセスを理解してもらうための前半があって、後半に進むほど、組織や人、リーダーシップの話に軸足を移していきます。

垣内:確かに、読み進めるほどに、どんどん人に寄っていくようなイメージですね。私自身、ワンマーケティングという組織をマネジメントする立場としても、非常に参考になるところが大きかったです。個人的にも、Marketoさんがどのように組織をつくってこられたのか、とても興味があります。

Marketo×ONE Marketingのトップ対談は、さらに続きます。後編は、福田さんが考える人材やマネジメント、リーダーシップの考え方について、さまざまな話を聞かせていただきました。ぜひ、あわせてご一読ください。

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